大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(ラ)242号 決定

抗告人 株式会社ジョリー・メゾン

代表者代表取締役 指田珠恵

代理人弁護士 園高明

相手方 ファーストクレジット株式会社

代表者代表取締役 岩本恭博

代理人支配人 佐藤興次

代理人弁護士 河崎光成

望月健一郎

主文

1  東京地方裁判所が、同庁平成四年(ナ)第八七〇号物上代位に基づく債権差押命令申立事件につき、平成四年六月一七日にした債権差押命令のうち、原命令添付差押債権目録(1)の共益費債権に関する部分を取り消す。

2  相手方の本件申立てのうち、前項の取消しに係る部分を却下する。

3  抗告費用は相手方の負担とする。

理由

1  抗告の趣旨

主文第1項と同旨である。

2  抗告の理由

相手方の本件債権差押命令の申立ては、原命令添付差押債権目録(1)記載の建物(ジョリーメゾンA棟及びB棟。以下本件建物という。)に対する抵当権の物上代位によるものであるところ、本件建物の所有者である抗告人の第三債務者に対する共益費債権は、抵当権の目的である本件建物(マンション)の共用部分についての維持管理や賃貸部分から出されるゴミ類の有償処分のために支出されるべき実費であり、各戸から一万円前後徴収されているものであり、賃料とはその性格を異にし、建物の価値を減価させるものではなく、建物の効用を高めるものであって、物上代位の対象とはなりえない。

よって、本件債権差押命令のうち共益費債権の差押えを命じた部分は違法である。

3  当裁判所の判断

記録によると、次の事実を認めることができる。

(1)  相手方は、平成二年一〇月二九日三建プランニング株式会社に対し金一五億円を貸付け、その担保として抗告人が所有する本件建物と抗告人外二名が所有する本件建物の敷地につき抵当権を設定したが、債務者が利息の支払を怠ったため、平成四年六月一五日抵当権に基づく物上代位として、抗告人らが原命令添付当事者目録(1)、(2)の第三債務者に対して有する賃料債権及び共益費債権の差押えを申し立てたところ、原裁判所はこれを認め、同月一七日債権差押命令を発した。

(2)  本件建物は、六階建及び四階建の二棟からなる鉄筋コンクリート造陸屋根の共同住宅(賃貸マンション)で、共益費は一戸当たり平均一万円であって、抗告人は、第三債務者から支払われた共益費全額を管理を委託している日祥株式会社に支払い、同社は、これを本件建物の共用部分の電気料金、水道料金その他共用部分の維持管理の費用に充てている。

このように、本件における共益費は、マンション全体の維持、管理のための費用であって、賃料とは別個に金額を明示して約定されており、その約定の金額の程度からみても、賃料の実質をもつものとは認められない。

建物の抵当権者に建物の賃料債権に対する物上代位が認められるのは、右賃料債権が建物の価値の代替物の実質を有することによるのであるが、共益費債権は、原則として、建物の維持管理に要する費用の支弁を目的とするもので不動産の価値の変形したものではない。したがって、共益費債権に抵当権の効力が及ぶものと解すべき法律上の根拠が欠けるものといわねばならない。また、共益費は建物全体の維持管理のための経費であって、差押えによりその収入が途絶すれば建物の維持管理に支障が生じ、各戸の賃貸借の継続を困難にすることとなるが、賃料に対する抵当権による物上代位の差押えが、賃料債権発生の基礎となる賃貸借の継続を危うくし、差し押さえるべき賃料の発生の障害事由となるとすれば、それは自らの基礎を掘りくずすいわば自己矛盾の内容の申立てといわざるをえない。以上のことを考慮すると、賃料とは別に共益費の支払が約定され、それが建物の維持管理の費用の実質を有する場合(通常の共益費はこれに当たる。)には、建物の抵当権者は物上代位によりこれを差し押さえることができないものと解するのが相当である。

したがって、原命令のうち原命令添付差押債権目録(1)の共益費債権を差し押さえた部分は違法であるから、その部分を取り消し、相手方の本件申立てのうち右取消しに係る部分を却下することとする。

なお、原命令中、原命令添付の当事者目録(1)記載の第三債務者のうち、⑥池谷博兒、⑦株式会社にっさつ、⑧鈴木憲三、⑨羽柴浅井に関する部分は債権差押命令申立てを取り下げたことにより失効しているものである。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 山崎潮 杉山正士)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例